-6月8日(水) 先日、西荻茶散歩で駅の南口の方面を歩いた。そのとき、店の軒先に沢山の土鈴が並んでいた。その中の一つと何となく目が合ってしまった。それが、ナマハゲ君だった。(上の写真)一昨日、《小さなお話》というのを載せたら、やまがらさんから反応があったので、懲りずに、また載せてみる。 小さなお話 【残像】 聡子は、向かいの席に晶子が居なくなって、もう2年か。 聡子は、昼休み、会社の食堂に来ている。 テーブルは、四人掛けである。 晶子がいた、ひとつの席が空いて、3人である。 友美と琴江と聡子である。 同期で入社した女性は、聡子を含めて8人いたが、3年過ぎたときに一人が辞めると言ったときに仲のよい3人も芋ズル式に会社を去っていった。残ったのは、四人である。それから、四人で仲良くやってきたし、結束も強くなった。 が、ある日、唐突に晶子が言ってきた。会社を辞めることを。 聡子が一番気の合っていた晶子が事後承諾みたいな形で『会社を辞めて、アイルランドに語学の勉強に行くんだけど』と聞かされたときには、驚くよりも自分自身に将来のビジョンがないのに腹がたった。 聡子は、27歳になっていた。 博隆という彼氏はいるが、学生時代からの付き合いで、いまではダラダラとした感じになってきていた。博隆も会社の仕事を覚え、一人前として任されるとようやく仕事の意味がわかり、聡子には悪いが会社のことが優先になってくる。聡子はわかってくれるだろうと思っていた。 隣から、『聡子、今日 会社の帰りにご飯食べて行かない』と友美が大きな声を掛けてきた。 『えぇー』 『何、考えていたの』 『いや、なんでもない』 顔を上げたときに、聡子は、なにか壁の白いクロスに影がぼんやりと写っているのを見える。今日は、どんな日なのかと聡子は思った。 今日は、友美の誘いも断わった。 晶子は、今ごろどうしているのだろうか。 帰ったときには、連絡すると言っていたが去年は、クリスマスカードが来るだけになってしまった。去年来たクリスマスカードには、これ以上ない笑顔で写っている写真が添えられていた。 最初のころは近況を何枚の便箋に書いて、寄越したが向こうの生活になれると手紙すら来なくなっていった。 食堂の壁の白いクロスに写る男の影が日増しに輪郭が浮かんでくる。聡子は、気持ちが悪くなってくることもあったが、いつもの場所に座る。友美や、琴江にいちいち説明するのもわずわらしい。 友美、琴江のふたりが休んだ日にじっくりと壁を観察したが、なにも変哲もない白いクロスである。聡子は、いつものように、いつもの場所に座り、食事をとり、神経を集中してみた。 壁の白いクロスに何か、うっすらだがはっきりと男の顔が見える。聡子は、目の焦点を一点に合わせてみると、やはり若い男の顔がこちらをじっと見ている。なにかやさしそうな目である。なにか呼びかける目でもある。こちらに来ないかというように誘っている目でもある。ずっとこちらを凝視している。誰なのか、問いかけたい性分になる。 今日は午後一番から用事があって、聡子は早めに食堂にきた。食堂は、第一陣の男性たちで一杯である。運良く、聡子のいつもの座る向かい席だけがぽつ―んと空いている。聡子は、四人席で3人が若い同年齢の男たちである。男の会話を聞いて、『あれー』と唸ってしまうのである。 『利生はなぜ自殺したと思う』 『仕事の悩みかな』 『恋愛でなにかあったのかな』 『昔、上のフロアの会社にいる女性と付き合っていたな』 『彼女が突然、アイルランドに行ったとか』 『それが自殺と、なにか関係あるのかな』 せっかく、探しあててその男が自殺していたとは。 それも一時期に晶子の彼氏だったとは。 聡子は愕然とし、今日あたり博隆に電話してみるかと思う気分になった。 《 あとがき 》 小さなお話は、あとがきを書きたくて物語を作りました。 構想・ヒントは、浮かびますが、物語として繋がり(ストーリー)を作るのはやはり大変です。映画などように、場面,場面を繋ぎ合わせることも難しいものです。 こんな光景を見ませんか。 気に入った女性か、きれいな女性が、男が、今いたテーブルで向かいあって座っている。ほんの時間のずれで。ただ条件が違いますが。同じテーブルに女性と男の残像が向かい合っている。男の魂みたいなものは残らないものか。 会社の食堂でお昼を食べるとします。男が食べたテーブルあとに、時間があいて、女が向かい合わせに椅子に座って食べます。どう言うことかと言うと、人間は大体、同じ時間に同じ場所に座って食べます。最初に男が、食べ終わったあとに、こんどは女性が座ります。これの繰り返しが続くと何か現象がおきないものだろうか。 女性の目には、食堂の壁のクロスにいつしか男が表れるようになります。その男は、だれだろうかと女性は思います。食堂の壁のクロスに男の霊が表れるのかもしれません。女性は、その男が気になり探し出していくというものです。 作者は、人間の目には現実に写る物と、心の目があり、その目はどんな物が見えるか。人間には、その心の目があるような気がしています。 その心の目の方が人間には価値があり、人間らしさがでるのかも知れません。
by nisiogikubo2005
| 2011-06-09 08:38
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